あのこは貴族

あのこは貴族
山内マリコ

味が濃いストーリーだった。
わかるどちらも。
正確には、大人になって行くにつれて、自分がどちら側なのかを気づかされ、
世界が反転した。
あちら側だと思ってたのに、こちら側だった、そんな感じだ。
どちらの世界もわかるからこそ、なおさら読み進める手が止まらなかった。


榛原華子
時岡美紀

かいがいしく育てられても、はたまた這い上がっていく気概を持って育っても
そのどちらも、ぶち当たるものがあるということだ。

自分が育ってきた環境、それがいかにアイデンティティを作るのか、
そんなことは自明だったはずなのに、
この本はそれをどかんとぶち当ててきた。

飛び出したくて、這い上がってやると意気込んで、
新しい世界に入った。
そこに広がっていたのは、2層に分かれた世界。
結局入れたわけではなく、ただその世界を眺めるだけの場所で、
自分がなり得ることのない境遇を、ものともせず、嫌味なく持ち合わせている。
決して入ることのできない、そんな部外者、を味わう世界だ。

片やもう一方は、
与えられたものが多くて、自然と手に入るものが多い。
自分では、自分一人の力では、何も掴んでいない、
それをわかってる。
そしてそれは他人と交わったときにより顕著に表れて、
自分という人間の面白みのなさがまざまざと感じられて、
でもそんな自分の持ち合わせのなさを押し隠してしまうのだ、隠せないのに。


私が慶應も学習院も、お嬢様女子大も苦手な理由が分かった気がした。
というか私立の貴族たち、内部の、推薦のあの感じが苦手な理由。
(早稲田は少し違うかもしれないけど)
無駄に外面を良くすることを覚えるのが早い人々たち。
自分では掴んでいないのに、当たり前に享受して、
振りかざしているつもりはないけれど、こちらとしては、見せびらかされているように感じる振る舞い、
一歩も自分のテリトリーから出ようとはしない、あの感じ。

世界の反転があったからか、気持ちとしては部外者で、でも境遇としては、意外と華子な側面もある
面倒だ。
だから、這い上がってく気持ちと、どこか自分で何も掴んでいない気持ち、
その揺さぶりが強い2つの気持ちをあいにく持ち合わせてしまったんだな、そう思う。


それよくあるよね、とか、そんなの慣れた話だなんて、昔は軽い気持ちで言えていたことを、
一旦胸のうちにとどめてから口にするようになった。
それを口にすることで、思わぬ違いを相手につきつけることになるかもしれないから。
そしてそれが望まない分断を作ることになるから。

「当たり前」「普通」その価値観の共有は、時には居心地がよくて、でも毒になるときもある。
人が当たり前の共有というぬるま湯につかって、一向に出ようとしないでいるところを傍から見ると、
自分のことは棚において、非難の気持ちが生まれる。

だから、そんなことを考えなくて済む世界に行きたくて、外に出たいと思ってた。
一歩出てみれば世界の構造は違ったものである、そう思ってた。
でもいつまでも入れ子になってたり、原体質がおなじだったりして、

そしたら、ああきっと、自分がもともといた場所でも傍から見ることを進んでして、自ら部外者になろうとしてたんだ、
そして新しく入る場所でも、当たり前に部外者で、
比較の発想を持って、外に出たい、
そんな風にもっと過ごしやすいところを、外に求めた時点で、ずっと部外者になるんだと思った。

「中華」になることはなくって、
まあ「小中華」くらいには、いやただ自分の世界を作り上げていくしかないな、そう改めて思った。
だから美紀のように、そしてのちの華子のように、飛び出してみるんだ。


女性は内部で分断するように仕組まれている。

その通りだ。
容姿の美醜、学歴の有無、結婚の有無、子どもの有無。
そんな項目は男性も同じであるはずなのに、
男性たちよりも、その違いが激しく映る。
男性たちにあおられてるのもあるし、自分たちでそれを助長しているのもある。

でも、私たち女全員で結託しましょう、なんて言ってみても、
結局は分断された向こう側の人たちをなんか信頼しきれなくて、心許ない。

男はきっと、見えないはずの女の社会構造を、
リトマス試験紙のように浮かび上がらせるんだ。

オスを前にメスになる女。
それは他人から良く見定められたい、という内なる欲望を顕在化したり、
自分の利益になり得る場合には、出し抜くわ、という本来の気質をただわかりやすい形で示しただけなのだ。

小学校は、残酷にもそういう気質を明らかにする。
男子に人気だから、という点で、近づいておいた方がいいと思って、仲良くしてくる人たちは、
往々にして、その後たとえ女子校に入っても、
人気のある人にぬるっと近づいて、その人が認知する頭数の中に入ろうとするんだ。

でもやっぱりたまに、『心中天網島』の女の義理に堅い、いい奴もいて、
そんな人と巡り合えることを楽しみに、様々な人とすれ違うんだと思う。


女ってめんどくさいね。
まあ楽しいんだけど。
これからもグチグチ言いながら、でも楽しんでくんだろうね、女を。

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